高橋温さんの「岩手を知る」

 無趣味、無教養、無貯金の当方、三井住友信託銀行の前会長(現相談役)高橋温さんと“知り合い”になれたのは「唯一の趣味・ケイバ」のお陰である。
 ケイバは、どんな立派な人でも、どんな金持ちでも、無教養な人間でも、貧乏人でも、神様が与えてくれる「楽しみ」はみな同じ。平等、自己責任。だから、すぐ友達になれる。
 毎年、たまちゃん主催の新潟競馬ツアーで一緒になる。楽しい。
 取材で、銀行のトップと知り合いになるケースは多いが……「趣味の仲間」の方が気が置けない。
 20日、その高橋さんから「岩手を知る」という小冊子が送られて来た。
 2012年1月から6月までの半年、毎火曜日、日本経済新聞夕刊「あすへの話題」欄に、高橋さんが執筆したコラム、24回分をそのまま収録したものである。
 実は連載中に何度か読んだ。ちょうど火曜日は、当方が毎日新聞夕刊で「牧太郎の大きな声では言えないが」を掲載する日。「ライバルみたいだな」と苦笑していた。
 改めて、読み返してみた。
 感動した。郷土愛を、郷土愛だけを書いている!
 大震災がそうさせたのかも知れない。岩手はこんなに素晴らしい! と何度も何度も書いている。
 このコラムの執筆を依頼した日経の担当者は「高橋さんのグローバルな視点」を期待したのではあるまいか?
 でも、彼は井沢八郎の「ああ上野駅」のような「温かさ」で書いている。担当者は、ちょっと裏切られ、連載が終わると「東北の日本の産業振興の風」が確実に描かれているのに驚いた、と思う。
 担当者の意向を無視して? 「岩手賛歌」を書き続けることで、日本のグローバルな「明日」を予言する銀行のトップ。
 素晴らしいじゃないか。
 岩手県松尾村(現八幡平市)出身の高橋さんは「故郷復興」に全てを掛けているのだろう。岩手銀行の社外取締役を務めていることを初めて知った。
 そう言えば、大震災以降、高橋さんは「夏の新潟競馬ツアー」に欠席が続いている。ケイバどころではないのだろう。
 この「岩手を知る」の補遺にこんなクダリがあった。
 「奥州蔑視を隠そうともしなかった薩摩、長州による藩閥政府の厚い壁をつき破った原敬、高橋是清……」
 実は、こうした「岩手の偉人」に言及出来なかったのが、残念なのだろう。
 高橋さんは「いつの日か、次世代の人が、岩手人物列伝を著して欲しい」と結んでいるが……大好きなケイバを止めても、大好きなカラオケを止めても(笑)、是非、高橋さんに「岩手人を知る」を書いて欲しい。
 高橋さん、お願いします。

<何だか分からない今日の名文句>
奥羽山脈が全てを育てた