「取材源の秘匿」

 29日のTBSドラマ「運命の人」第三話は前半のクライマックス。毎朝新聞の弓成記者(モデルは毎日新聞西山記者)が逮捕される。
 簡単なあらすじ……沖縄返還協定の密約を暴くために、親しくなった外務省女性事務官・三木昭子から入手した “ 極秘電信文 ” を社進党の横溝(モデルは当時の社会党衆院議員、横路孝弘。その後、北海道知事。現在の衆院議長)に預けた弓成。
 横溝は弓成との約束に反して、“ 極秘電信文 ” を公にした。
 そればかりか、社進党は“ 極秘電信文 ” の照合に応じる外務省・機密漏洩調査が始まる。
 文書が流出した5月と6月分の回覧文書受付簿がなくなっていることから、三木昭子は疑われる。
 一方、佐橋総理大臣(モデルは佐藤栄作)は、田淵・小平連合が黒幕であり、密約事件を公にして、佐橋政権に揺さぶりをかけているのではないかと疑う。田淵のモデルは田中角栄、小平は大平正芳である。
 佐橋は警察庁長官に捜査を命じた。
 弓成は警視庁から、重要参考人に近い任意出頭を要請される。
 「法を犯すようなことはしていない」という弓成だが「横溝議員に電信文を渡したのは自分だ」と政治部長に告白する。
 昭子は夫に付き添われ、警視庁に出頭する。
 自分が出頭することで「昭子の早期釈放に繋がれば」と弓成は政治部長に付き添われ、出頭する。
 新聞記者にとってニュースソースの秘匿は絶対的なものであると黙秘を貫く弓成。
 一方、昭子は「強引に依頼され、断りきれずに仕方なく極秘電信文を弓成に渡してしまった」と供述する。
 弓成は『国家公務員法111条違反』、国家公務員に対して、職務上知る事が出来た秘密を漏らすようそそのかしたという罪で逮捕状を執行され、逮捕される。
 第三話は、ここで終わる。
 モデルの西山記者が逮捕された夜のことは、鮮明に覚えている。
 何が起こったのか? 何も分からず、ただ心配で、午後10時、持ち場の丸の内警察から本社に戻ったが、社会部では「国家権力の横暴!」といきり立つ先輩ばかりだった。
 でも、冷静に考えなければ……と思った。
 毎日新聞の最大の失敗は「取材源は誰かを、外部に絶対に明かさない」という新聞記者・ジャーナリストの守るべき絶対・最高のモラル規範を残念ながら、結果的に破ってしまったことである。
 取材限の秘匿は国民の「知る権利」を守るために不可欠の原則。しかし、法的に明確な規定がないため、公務員の守秘義務との関係が常に問題になる。国家公務員法では、国家公務員は業務上の機密を外部に漏らしてはならない、という「守秘義務」が定められているのだ。
 国民の知る権利、相反する「国家公務員の立場」、いつも問題になる。
 刑事訴訟法第149条で、業務上知りえた他人の秘密について、法廷で証言を拒むことができる職業として、医師、弁護士、看護師、弁理士、宗教家、公証人、助産婦、歯科医師が列挙されれいるが、新聞記者・ジャーナリストはこれに入っていない。
 その一方で、憲法では「取材の自由」が保障されている。
 これは、何を取材してもよいという意味ではない。取材することを国家権力から妨害を受けない、つまり「国家権力からの自由」という憲法上の権利を言う。
 しかし、現実には、国は、都合の悪いことを取材すれば、ありとあらゆる方法で記者に圧力をかける。
 僕も、何度か「妨害」を受けた。
 取材源を秘匿して、真実を暴くことの難しさ。
 権力の「発表」を鵜呑みにして、記事を作っている記者には無縁の話だが……。
 たまたま、28日「取材源の秘匿」に関連する外電が入って来た。
 イギリス警察当局は英国で最大発行部数を誇る大衆紙「サン」の元・現編集幹部ら4人とロンドン警視庁の現職警察官1人を情報提供をめぐる贈収賄容疑で逮捕した、という。
 逮捕されたのは元副編集長や現ニュース部長ら4人。容疑は、情報を得るために29歳の警察官に賄賂を渡したというのだが……。
 記者やジャーナリストに対する「国の圧力」は西山事件の昔より、さらに強くなっているのかも?
 さて「運命の人」の第四話は2月5日日曜日夜9時。
 毎朝新聞内では“報道の自由を守ろう”という気運が高まり、記者たちは「沖縄返還に関する密約を追求した新聞への佐橋総理による報復。弓成は見せしめにされた」といきり立つ。他の新聞社も巻き込んでの一大キャンペーンが展開されるのだが……。
 今の毎日新聞には、当時のことを知る記者は、僕も含め、何人も居なくなった。
 若い記者の皆さんには、必見のドラマ! と言っておきたい。

<何だか分からない今日の名文句>
記者地獄