編集長ヘッドライン日記 バックナンバー
2000.7月

  7月28日 夜8時、赤坂夜塾

 オウム裁判、早川に死刑。

 人が人を裁くことの辛さ、哀しさ。それを痛感しながらも「死刑でよかった」と思う。

  夜8時、赤坂のホテルで開かれたジャーナリストの勉強会「赤坂夜塾」に参加する。 参加者30人弱。

 首相官邸クラブに所属する(とおぼしき)政治部記者が森さんの「神の国」弁明会見の前日「明日の記者会見についての私見」なる文書を作って”生き残り策”を伝授した騒動。これが今日のテーマである。

 朝日、毎日の官邸キャップと、この騒動を果敢に報道した西日本の記者がそれぞれの立場で意見を述べた。

 「ご用記者」が最高権力者?の森さんの歓心を得ようと、意見具申したのは、本人の勝手だが、問題の文書をコピー機に忘れてしまったはドジだった。

 おっちょこちょいの「権力番犬記者さん」はどこにもいるから、それほど驚かない。

 三人の政治記者さんは、文書を書いたと思われる人物の名前をあげて「あの会社は……」と話したが、確証もないので明らかにするのはやめることにする。

 いずれにしても、政治の世界でも、芸能界でも、プロ野球でも、要するに「どこにもある話」。

 ただ「番犬記者」の発想が、どんなものか、問題の文書を読むと良〜く分かる。  権力にすり寄る新聞記者の体たらくが良〜く分かる。

 そこで、一部雑誌に掲載されたこともあるようだが、問題の文書を長くなるが掲載してみた。

 「25分で記者会見を終えろ!」と「番犬記者さん」は森さんに注文をつけたが、実際には47分かかったところが、おもしろい。

 (興味のない向きは、飛ばしてくれ。後ろに馬好き向きの7月30日の日記があります)


 【明日の記者会見についての私見】

 ▼今回、記者会見を行うことによって、「党首討論はやらなかったが、森総理は、この問題で逃げていない」という印象を与えることはできると思います。ただ、今回の会見は大変リスキーで、これまでと同じ説明に終始していると、結局、民放も含め各マスコミとも、「森首相 ”神の国発言”撤回せず 弁明に終始」といった見出しを付けられることは、間違いないと思ってください。官邸クラブの雰囲気をみますと、朝日新聞は「この問題で、森内閣を潰す」という明確な方針のもと、徹底して攻めることを宣言していますし、他の各マスコミとも依然として「この際、徹底的に叩くしかない」と言う雰囲気です。

 ▼「間違ったことは言っていないし、これまでの国会答弁などとの整合性を考えると、発言の撤回は出来ない」という意見は、よく判ります。また官房長官も昨日、会見で「撤回は考えていない」と言っているので、官房長官発言との整合性もあるでしょう。
しかし、会見する以上、総理の口から「撤回」と言わないまでも、「事実上の撤回」とマスコミが報道するような発言が必要だと思います。そうすれば、マスコミも野党もこの問題をこれまでのような調子で追求することはできなくなります。その場合、「なぜ、これまでの発言と変えたのか?」と質問されると思いますが、その時は、「真意を分かってもらえば、誤解は溶けると思ってきたが、その後も現実に、多くの方に誤解を与え、迷惑をかけたので」と言えばよいと思います。

 ▼「事実上の撤回」と受け取ってもらうための言い方ですが、「私の発言全体を聞いてもらえば、決して間違ったことを言っているのではないことは理解してもらえると思ってきたが、一部、発言に舌足らずのところがあり、現実に、多くの方に誤解を与え、また迷惑をかけたことは事実だ。従って、発言全体の趣旨について撤回するつもりはないが、『日本は天皇を中心にしている神の国である』と発言した部分については、取り消したい」などと冒頭で言明した上で、神崎代表が言っているように、国民主権と信教の自由を堅持することを明確に説明すればいいと思います。いずれにしろ、こうした発言は、冒頭で明確に言った方が、よいと思います。また、こうした方針の転換をするのであれば、事前に官房長官と幹事長に了解していてもらうことが不可欠だと思います。

公明党から直ちに歓迎の声をあげてもらうことも必要です。

 ▼会見では、準備した言い回しを、決して変えてはいけないと思います。色々な角度から追求されると思いますが、繰り返しで切り抜け、決して余計なことは言わずに、質問をはぐらかす言い方で切り抜けるしかありません。先日、総理自身がいっておられたように、ストレートな受け答えは禁物です。それと、朝日などが騒いだとしても、くれぐれも時間オーバーをしないことです。冒頭発言も短くし、いくつか質問を受け付けて二十五分という所定の時間が来たら、役人に強引に打ち切らせるようにしないと、墓穴を掘ることになりかねません。(近藤広報官にそれが出来るかどうか心配ですが)総理就任の会見の際も、最初は好評だったのに、予定をオーバーした際の質問に、総理が丁寧に答えていた部分が、逆に大変、不評でした。くれぐれも、会見を長くしないよう、肝に命じておいて下さい。


7月30日 一口馬主の泣き笑い


 僕が40分に1の権利を持つリングレット。英語で「巻き毛」という意味である。

 母がダイナカール。「力ある巻き毛」と意味か。

 全姉はあのエアグルーヴ。

 母も姉もオークス馬なのだが、リングレットは6戦1勝、走らない。
 毎月12000円の飼え葉料が出ていく。ああ、泣ける。

 でも、去年夏、牧場に会いに行ったら頭を僕に寄り添うようにする。当方のことが分かるのかしら。可愛いくて可愛いくて……。

 だから、出走する日は朝からドキドキする。まるで、息子が出る小学校の運動会みたいだ。

 この日は福島の7レース。

 ラジオ中継を聞けば、一度「リングレット、最後方」とアナウンスがあっただけ。

 ああ、今夜もやけ酒。情けない。

<なんだか分からない今日の名文句>

番犬より、出来の悪い愛馬


7月27日 「死刑!」と叫ぶ記者たち

 明日、オウム裁判で、あの早川に判決が降りる。

 1989年秋、マスコミの中で一早くオウム真理教の犯罪を追及したサンデー毎日は、オウムの詭弁、「信教の自由を無視するのか!」という一部インテリの圧力、警察の無関心……そんな中で7回にわたる追及キャンペーンを続けていた。

 その最中、取材の協力者でもある坂本弁護士一家がオウムに拉致された。

 「オウムに殺された」と疑いながら、どうしようもない苛立たしさ。あの頃の辛さを思い出すと、裁判の度に落ち込んでしまう。

 昨日、朝日新聞の社会部司法担当記者が「早川は『オウムが最初にポアしようとしたのは牧さんだ』と法廷で証言しています。その意味でコメントをいただきたい」とやって来た。

 正直言えば、会いたくない気持ちだ。

 コメントなんてない。

 坂本一家の殺害を許したのは、警察であり、我々、報道陣だった。

 「コメント」なんてカッコの良い言葉では言い表せない。

 オウム事件は風化させてはならない。と思いながら「風化するべきだ」とも思っている。

 僕の言う「風化」とは、かつての信者が「あの人、昔、オウムだったんだって。そうは見えないよね。明るくて積極的で」なんて世間話が出来るような「風化」だ。

 だから、早く裁判が進めばいい。

 麻原がいなくなれば良い。

 司法の場で決着がつけば、オウム事件は「福祉の範疇」になる。元信者を社会がどう受け入れるか。これは事件でなく福祉の問題だ。

 早川の死刑も致し方ない。

 裁判の終わるのをじっと待つ。それしか、ない。

 朝日の記者さんは「テレビの人が『死刑!死刑だ』と法廷から飛び出す姿を見ると、複雑な気持ちになる。ジャーナリストは軽薄ですね」と嘆いている。

 裁判官が主文を後回しにするので、主文が言い渡されるのが午前11時半ごろ。民放の「お昼のニュース」にぶつかる。

 やむを得ず、法廷の厳粛な空気を無視して「死刑!」と叫びながら、記者たちが廊下に飛び出す。

 夕刊の締め切りの関係で、時間によっては新聞記者もそうする。

 朝日の記者さんは「それが嫌で」、そうだろう。

 しかし、これは仕事だから仕方ない。そんな役回り必要なんだ。  問題はマスコミが全体として「一過性」「商業主義」に振り回され、冷静に報道することをすっかり忘れるのが怖い。

 「死刑」を速報する記者は必要だが、オウム事件を「見せ物」のように報道すればこれで良し、と考える記者はゴメンだ。

 早川判決で一段落する夏のオウム裁判。

 そんな時、一過性でない、商業主義を無視した報道があったら、なんて思うのだが……無理か。

 僕には不似合いな日記になってしまって……もっと愉快な日記を書きたいナ。

<なんだか分からない今日の名文句>

待つが花


  7月25日 夏休み、オヤジの職場に来い

 多忙を理由にサボっていたリハビリ。二週間ぶりに「たいとう診療所」(東京・台東区台東2−3−6)に顔を出した。

 「3分診療」が致し方ない時代に、たっぷりと患者の悩みを聞く「たいとう診療所」は僕に取って<赤ひげ>的な存在だ。

 久ぶりに顔を出すと、朝日新聞が紹介記事を書いたこともあって一段と患者が多くなった。

 もう少しで赤字解消かー何て勝手に想像したりする。

 何が良いか?と言えば、家庭的でリハビリ室に笑いが絶えない点である。患者が楽天的にならざるを得ない何かがある。不思議だ。

 午前九時。「一番乗り」と思ってリハビリ室に入ると、もう5人の患者さん。
 その真ん中に小学生とおぼしき少年。
 何者だ?
 「伊藤鉄兵、六年生です」
 診療所のリーダー、伊藤運動療法士の長男。
 「夏休みの宿題にオヤジの職場の見学があるので……」とオヤジの方が照れている。

 鉄兵君、当方に「何をやっているんですか?」
 「右の手が麻痺しているので……麻痺って分かるかい。そう。動かない手を君のお父さんに手伝ってもらって、動くようにしているんだ」
 「分かりました……写真、いいですか?」
 鉄兵君、誇らしげに父親の活躍を見つめている。

 うらやましいナ。
 こんなに父親を信頼した子供の眼に、お目にかかったことはない。

 僕の倅なんて「オヤジはいつも酒を飲んでる」と軽蔑してばかりだった。

 アイツが子供の頃、仕事場を見せておけば、もう少しコミュニケーションが出来たのに。

 20年前の後悔ーー。

         
<なんだか分からない今日の名文句>

俺の背を見ろ 何にも言うな


  7月23日 「携帯」に笑う教授

 前夜、大学教授をしているサンデー毎日元編集長のS先輩と久ぶりに会う。

 「授業中に『三河屋です』と出前持ちがカツ丼を持ってくるんだ。学生が教室から携帯電話で注文するんだ」

 こんなことってあるの?

 「そこで授業中は携帯禁止にしたら着メロが鳴って『誰だ!』と怒鳴ったら俺の携帯だった」。

 日々、携帯が文化を変えている。

 落語界の大御所が鳴り出した携帯を耳に当て「何で、俺がここにいると分かったんだ?」と不思議がった数年前が懐かしい。

 S先輩の話によると、学生全員に自己紹介させたら、彼らは必ず携帯の機種を紹介する。「機種が同じなら仲良くしましょう」。

 携帯で話すより携帯でメールするのが、彼らの文化なのか。

 あまり暑いので?東京を脱出して福島競馬。福島も盆地だから更に暑い。600円の損で済んだが、交通費など諸経費を計算すると痛い。家にいれば良かった。

 福島駅西口前のイトーヨーカドーで、氷アズキを食べていると、大阪の新聞社から「ジャーナリスト・黒田清氏死去」の知らせ。涙にくれる。

 コメントを求められ「渡辺恒雄・読売新聞社長が権力の美学なら、喧嘩相手の黒田さんは庶民の美学」と話す。

 69歳は早すぎるじゃないか。

 東京に戻り、月曜日発売のサンデー毎日が久ぶりに「日本の闇」を解き明かすようなスクープを出した、と聞き少し早く手に入れる。

 先週号から始まった「バーニング帝国の素顔」の2弾。

 「関係筋から編集部に圧力」とかいう噂だが、それほどの特ダネとは思わない。僕が読みたいのは某代議士先生と芸能界のつながり。まだ取材が行き届いていないのか。あるいは書き切れないのか。

            
<なんだか分からない今日の名文句>

壁に携帯あり


  7月19日 犬の風邪は商売になる

 朝。某老舗デパートの外商担当、来訪。「65歳で二度目の定年が来ましたが、お客さんの要望でアルバイトという形で続けさせていただくことになりました」。

 正社員→嘱託→アルバイト。このご時世に、お客さんから「君がいないと」と言われ、残留が決まる。外商一筋40年。顔が清々しい。

 昼。介護のオピニオン誌「ばんぶう」のインタビューを受ける。出したばかりの単行本「ここだけの話」を紹介してくれるらしい。

 女性記者君、23歳。既に某流通関係の新聞社をやめ介護専門出版社に転職している。若者はフットワークがいい。

 夜。尊敬する内科医一家と日本記者クラブのレストランで夕食。「午前中だけで40人前後の外来を見る。3分診療をせざるを得ない」。誠心誠意で接しても限界がある。

保険点数の話、セカンド・オピニオンの話……医療の矛盾を話すと朝になってしまう。

 「動物病院は自由診療。値段も医者が勝手に決める。人間の風邪・金ウン百円、犬の風邪・金1万5000円。何か変だよな」と彼。

 一つの仕事をやり遂げるには……右を向いても左を見ても「矛盾だらけのご時世」だ。

<なんだか分からない今日の名文句>

無理があろうとなかろうと 道理は引っ込むニホン国


   7月18日 白かび、青かび

   銀座の某デパート。おこわを買いに地下の食料品売場を覗くと、いつも人気の「世界のチーズ」売場が閑散としている。

 ひょっとすると、雪印騒動の余波を受けているのかもしれない。

 ご婦人の一人が「イヤネー、白かび、青かびですって」と何か、触ってはいけないようなものを見たような顔つきである。

 あまりチーズに詳しくはないが、カビはチーズに欠かせないもの。白かびタイプは「白かびに包まれて、柔らかく熟成されクリーミー」、青かびは「個性的なクセのある味」。要するに「腐った納豆」が商品になっているようなものだ。

 その辺のことを知らないと笑い話になってしまう。

 同行したアスカ君「雪印、倒産するんじゃない?」

 「……」

 それくらいの大事故だが、もう、倒産はゴメンだ。

 「そごう」の倒産で「今度はウチ」と心配しているゼネコンが幾つもある。

 倒産の夏に、凍えるような胸騒ぎ。

 ああ、嫌だ。

   
<なんだか分からない今日の名文句>

俺だって、家に帰れば父さんだ。


 7月16日 サミットの日、台風が来たら

 やたら暑い日曜の午後、知人が遊びに来た。

 「ちょっと心配なことがあって……」

 知人の不安その1。

 サミットの当日、台風が沖縄を直撃したら、どうするか。

 彼は政府関係者という訳でもないので、彼の情報、信頼出来かねるところもあるが「台風で開催地が東京に変更なんてこともあり得る。そうなると大変だ」。

 それでは、サミットの最大テーマ「沖縄」が何処かへ行ってしまう。緊急事態で「東京サミット」なんかにならないように祈るのみ。

 知人の不安その2。

 森さんと番記者の間がギクシャクしている。どうも、昨今、森首相、記者たちに軽く見られているような気がする。

 推測だが若干、官邸の重石・官房長官の力量にトラブルの遠因があるようにも思える。その昔、後藤田官房長官時代、記者団の方が「後藤田さんに、こちらのマイナス情報を掴まれたのか?」といった不安に駆られる時が多々あった。それが権力中枢の迫力? 彼の背後で「後藤田機関」が動いているような気がしたものだ。

 少し前の野中官房長官時代も記者団が位負け。夜回り取材の際、気に入らない記事を書いた記者に向かって、野中さん、露骨な言い回しで圧力?をかけた、とも聞く。

 森さんと側近は迫力不足か、配慮不足か。

 彼が不安に思った「ギクシャクの原因」については、森さんの言い分に「ご無理ご最も」と感じることもあるので18日の毎日新聞夕刊「ここだけの話」で僕の意見を書きたいと思っている。

 さて、この日最大の僕の不安。愛馬・デリキット(40分の1の権利を持つ僕は一口馬主)は午後1時40分、函館競馬8レースに出走し、またもや8着。涙ちょちょ切れる。

 デリキットの語源は英語のデリケート。繊細な心と言うよりも、バタバタ走って優雅にゴールインする大胆さ。稼ぎは悪いが、世知辛い風潮に背を向け、ゆったりとゆったりと走る性格。それにしても5歳で、すでに14戦。走る労働者は、気は長くして身体強健。これには惚れてしまった。

    
<なんだか分からない今日の名文句>

職業に貴賤なし、馬生に貴賤あり


 7月13日 出世桜はいつか散る

 前夜、勤め先の先輩が要職についたというので、朝日新聞社近くの小料理屋で小人数のお祝い会。

 このご時世、出世したからと言って「祝賀」を受けるほど単純ではない、とは思うが、ともかく先輩に何か「新しいチャレンジの可能性」が生まれたことは事実。同慶である。 だが、当の先輩はうれしいのか、うれしくないのか、今ひとつ、はっきりしない。

 出世競争は桜のようなものなのかも知れない。

 桜は、咲く前から人の心を悩ませる。花の咲くのを今日か明日かと待つのは、知り始めた初恋のように甘酢っぱい。だが、満開になれば……。

 サラリーマンとして頂点を極めても、そのポストにいるのは精々、5,6年。その間、神経をすり減らし「全体」のためにかけずり回る。「個」を忘れてかけずり回る。

 そして、出世桜は散る。

 「おめでとう、と言われても……」と話す先輩の気持ちも分かるような気がする。

 午後、軽井沢のホテルで、勤め先の新聞社の販売店の集まりで講演する。これ、新聞社としては大事な行事。 尊敬する現社長も出席して盛会だったが、社長の後ろ姿に何故か「経営者の苦悩」が垣間見え、つくづく「出世しなくて良かった」と思ったりする。

 若い世代は、その辺の「真理」を心得ているから、そこそこ楽しく生きられる。

  出世なんて概念、20世紀だけかも知らない。

 軽井沢は新緑。いい季節だ。

    
<なんだか分からない今日の名文句>

胡麻のスリ違え


 7月12日 ヒラリーさんは誰のもの?

 1泊2日の尾瀬の取材から帰る途中、某省の友人にばったり会った。

 彼との世間話に「景気」「健康」は登場せず、浮き世離れした笑い話−−。

 アジアの某国の某高官は英語が大の不得意。アメリカを訪問するに当たって、周囲は彼の英語力不足に頭を痛めていた。

 そこで、側近は知恵をつけた。

 「How are you?(こんにちわ、お元気ですか)」と言って下さい。相手が「Fine, thank you, and you?(お陰様で、ありがとう。あなたはいかが?)」と答えますから、そしたら閣下は「Me, too(はい、私もお陰様で元気です)」と言って下さい。それだけを覚えておけば、表敬はOKです。

 ところがである。

 閣下は当日、大統領に面会すると、なぜか「Who are you?(あなたは誰ですか)」と言ってしまった。

 クリントン大統領は大いに驚いたが、隣にいたヒラリー夫人を指さし「This is Hillary. I am her husband(これはヒラリー。私は彼女の夫です。)」とさりげなく応答した。

 すると、閣下は教わった通り「 Me, too(私もヒラリーの夫です)」と誇らしげに答えた−−!

 二人は真っ青な空の下で大笑いした。

 もっとも、この笑い話、同時通訳の世界では有名な話でニュースではないらしい。

 サミットまで1週間足らず。彼は別に「森さんの失言」を心から心配する様子でもなく「沖縄は暑いぞ」と駅の向こうに去っていった。

<なんだか分からない今日の名文句>

口はお笑いのモト


 7月10日 亀井さんは現れなかった

 東京は未明に台風3号の暴風圏に入る。

 突風の金属音で眠れない。前夜、全日空ホテルで行われた「内藤国夫さん一周忌」は 嫌に、息苦しい会合だった。

 内藤さんは毎日新聞出身のジャーナリスト。その昔、彼が毎日新聞の警視庁キャップ を勤めた頃、僕は彼の部下で事件記者で親しい間柄になった。

 その後、内藤さんは退社して「創価学会批判」の言論を繰り広げた。希に見る戦闘的 なジャーナリストで、取材活動に見せる「恐るべき粘着力」には脱帽した。ただ、正直 言って彼の文章は嫌いだった。唯我独尊のような、「教えてやるんだ」という目線の高 さが好きになれなかった。

 だから、自然と付き合いは途絶えていたが、ちょうど1年前、友人から「亡くなった 」と聞かされた。癌だったらしい。

 一周忌の会合には150人ほどの友人、知人が集まって故人を偲んだ。チョッキ姿の 遺影を眺めると「正しいものは、どこまで行っても正しい」という確信のようなものが 、彼の額に滲み出ている。

 四月会なるグループを代表して評論家・俵孝一郎さんが挨拶した。

 「今回の総選挙で十分ではないが、公明党敗北を勝ち得た」と言ったような意味の挨 拶。献盃の音頭を取った新潟県の前衆院議員は「敵の背後にいた公明党」という感想を述 べた。

 僕だけの印象だが、一周忌というより選挙総括に近い光景を見るようでは息苦しかっ た。

 未亡人が「創価学会」にふれなかったのが救いだった。

 創価学会の教義には関心がない。彼らが政治に取り組むことに世間は賛否両論。いろ いろなところで軋轢を生んでことも事実だ。どちらかと言えば、僕は公明党の政権参加 には反対だが、それにしても、一人のジャーナリストの一周忌が「反学会」の一色にな るのが、悲しい。 もっと暖かい、人間味に満ち満ちた光景を期待したのに……。  俵さんは「同志の一周忌」と心得、亡くなった内藤さんも、こうした「光景」に喜ん でいるのかも知れないが、何故か寂しかった。

 「ゆるふん記者」の当方は主義主張だけで生きるのが苦手だ。「あまりの正義感」は 周囲まで息苦しくするようで嫌なんだ。

 この僕の「いい加減な価値観」は江戸っ子だからかも知れない。

 四月会は、公明党と自民党が仲たがいしていた頃、亀井静香氏が音頭を取って作った 反公明党キャンペーンの拠点である。内藤さんは請われて四月会の幹部になったが、今 や自民・公明蜜月の世。数年間で政権党・自由勝手党?(失礼)はさっさとヨリを戻し た。

 会場の息苦しさに我慢出来ず、僕が会場を後にするまで、当の亀井・自民党政調会長 は姿を見せなかった。多分、最後まで姿を見せなかった、と思う。(某汚職事件の対応 で忙しいのかも知れないが……)

 政治の世界では「こころ変わり」は日常茶飯事。亀井さんは、平気で「あまりの正義 感」を裏切った。

 未明の突風が原因、とは思うが、なかなか眠れなかった。

<なんだか分からない今日の名文句>

女の情念よりも婆の怨念


2000.7.7 「言葉狩り」と闘うために

 2000年7月7日午前7時、ホームページ「2代目日本魁新聞社」の立ち上げに成功。エコノミスト・小島、雨宮Jr・有希兄妹、ミュージシャン・本間……彼ら若者の協力がなかったら、パソコン音痴の55歳、ホームページを持つなんて夢のまた夢だった。ありがとう。

 友達万歳! 若者をおだてて使う、我が才能万歳!

 ただ不安は更新。本間は「毎日更新」を主張。他は「牧さんの思いのまま」と言ってくれるが、果たして「毎日」は可能なのか。更新の手間暇を考えると自信がない。結局、月水金更新にする。幼き頃の「塾通い」のような”勉強嫌い”が母親の顔を立てるような妥協的日程。

 そんなにしてまで「ホームページを!」と思いたったのは、大げさに言えば「言葉狩り」と闘うためである。

 例えば、某雑誌にエッセイを頼まれ「競馬狂」と書くと編集者が「競馬ファン」と書き換える。どこが差別用語か! その自己規制が日本の人と文化を駄目にする。

 この点、ホームページは何でもありの「表現の自由勝手」。これを「万歳!」と言わずして、何を「万歳!」と言えようか。

<なんだか分からない今日の名文句>

頑固は力なり